ものづくり特集:宮古島で地元の素材と出会う工房vol.1
今回取材させていただいたのは、「あだん細工のチームあだん」代表、藤原笑子さんと「月桃細工の月桃のかごや」池田波子さん。宮古島の高千穂というエリアの古民家の一部を改装した工房&ショップがオープンしました。「色々なジャンルのアーティストとコラボして文化の発信をする場所に」と言う古民家のオーナーの思いに賛同、古民家の一部をお借りして始まった活動です。
インテリアやファッションに取り入れたい、夏を彩るおしゃれでなんとも涼しげな帽子やかご。「あだん」と「月桃」は沖縄のどこにでも見られる身近な植物です。
昔から農具や漁具としてかごや道具が編まれていました。近年ではプラスチックなどの安価な代替品の普及で編む人も少なくなっていましたが、宮古島に移住したお二人がそれぞれの素材と出会ったお話、地元の素材を活かして「地域に根ざしたものづくり」がしたいという想いについてたくさんお聞きすることができました。
vol.1は「あだん細工」について藤原さんのお話です。
「あだん」について
「あだん(阿檀)」はタコノキ科タコノキ属の常緑小高木。亜熱帯から熱帯の海岸近くに生育します。宮古島には山がなく竹が生えないので、さまざまな民具をあだんで作っていました。宮古島は珊瑚が隆起した島、土壌が豊かではないので植物の育成には不利な環境です。そんな中でもあだんや月桃はこの地でも一年中丈夫に育ちます。ただ、大きな台風が来ると島全体が潮を被ってしまうため植物は全部茶色になって落ちてしまいます。
あだんの葉を採りに
制作に使うあだんは、個人の方が畑などに植えているあだんから譲ってもらいます。畑といってもほぼジャングル。なんだかよくわからない虫もたくさん。いろんなところから視線を感じます。宮古島にはハブがいないのでそんなに危なくはない。海辺に自生しているあだんは、過酷な環境で葉が傷んでいることがほとんど。
夏はトゲも多くなるので冬から春に一年分採りに行き、足りなければその都度調達。帽子に使うには2メートルほどの葉が必要です。
種類によりますが、実も食べられます。灰汁が強く、食べている間にイガイガしてきます。ほのかに甘く、昔は食べられていましたが、今ではヤシガニがせっせと食べているかな〜というものです。石垣の方では茎を湯掻いて食べる「あだん料理」があります。これは上等な筍の味。美味しいですが、灰汁を抜くのが本当に大変です。
編む材料となるまでの工程がとても大変!
・採ってきたあだんのトゲをとる
・茹でる
・一晩シークァーサーや島レモンで漂白する
・乾燥させる
・乾燥するとクルクル巻いてくるので毎日なめす
全工程に1ヶ月ほどかかります。シークァーサーというのがとても沖縄らしいですが、アダンに限らず、シャツの漂白なども古くからシークァーサーを使っていたんです。
宮古島に移住、あだんとの出会い
四国の松山に生まれ長く神戸に住んでいました。宮古島が好きで10年前に移住。学生時代にファッションを学んだり、アクセサリーを制作して販売したりとものづくりは好きで関わっていました。
宮古島はあまり工芸が盛んではなく、本土や石垣島のように盛んに地域で人を育てたり、販売を支援したりという活動が見られませんでした。2018年に活動を開始した「チームあだん」は現在 5人。それぞれ、あだん刈りだけ、材料にする作業だけ、アクセサリーだけ作る方など、自分のペースで得意だったり好きなことをしています。
この活動は、宮古島在住でクバ(棕櫚(シュロ)のこと)を扱うバスケットアーティストの小川京子さんのワークショップに参加したメンバーが立ち上げました。3日間のワークショップで編むだけではなく、葉を採るところから全ての工程を体験したことや「この中の誰か1人でもあだん細工を続けてくれる人がいたら」という小川さんの想いを受け、知識も経験もない中、「宮古島市体験工芸村「チガヤ工房」」のおばぁに教えてもらいに行ったりと試行錯誤。
昔のままの道具では使いづらいものもあり、道具を手作りしたり、ハワイのラウハラカッターを取り寄せています。なめすのには古いうどん製麺機、これもハワイに移民した方が持っていたもの。更に仕上げのなめしは手作りの竹のヘラのような形の道具を使います。
琉球パナマ帽などアダンで作られるもの
「チームあだん」の帽子やかごバックは昔のままの型ではなく、現代のファッションとも馴染むおしゃれなデザイン。昔のままの市場かごやパナマ帽の型では現代のファッションや生活と合わない面もあり、かごに内布をつけたり、使い勝手やデザインをチームで相談しています。
あだんで編まれた帽子が主力商品。ホテルのショップに納品するものやワークショップではパイナップルやカメの形が可愛いアクセサリーも作ります。
今、昔ながらの玩具、ハブグァ(ハブの形に編んである素朴な玩具)の小さいものに、沖縄の食堂で昔から使われている「うめーし(赤と黄色の箸)」を入れたマイ箸セットを作っていてこれから販売しようと準備しています。
あだんは環太平洋の島々に多くの種類が自生し各地で編まれています。ハワイだとラウハラ(タコノキ)、パンタナスを使い、ラウハラハットは高級品です。宮古島と違い、乾燥していてカビも生えない為、落ちた葉を使います。年に何個も作れないのでこれで生活はできませんが技術を継承する為に続けているようです。フラダンスをやっている日本の方の憧れの帽子です。
「チームあだん」の帽子も、日本で買えるあだん帽ということでフラダンサーの方がすごく興味を持ってくれ、購入されます。材料をオンラインショップで販売し、YouTubeで作り方動画をアップしていますが、フラダンスをやっている方がバングルなどを上手に作ってインスタにあげてくれているのを見ると感動です。コロナ禍で、なんとか魅力を伝えようと始めた取組で、材料もすぐに売り切れてしまいます。
オープンした「あだん工房」の入る古民家のこと
「あだん工房(チームあだんの拠点名)」の入る古民家は宮古島でも高台にあり静かな環境。風が抜けて周りは畑。お向かいが金城陶芸さんという陶芸の工房があります。この辺りは昔から高千穂と呼ばれ、ここを工芸の拠点に、アーティストが集まってきたら面白いねと話しています。古民家の改装には近所の子どもたちも手伝ってくれました。ワークショップをしたり、販売している奥は制作スペースになっているので、作っている様子も話しながら見ていただけます。
イベントや小学校でのワークショップも続けています。子どもたちはあだんが生えているのを見たことはあるけれど、触ったことがないと言います。作り始めると本当に楽しそうに取り組んでくれ、学校教育でももっと取り入れてもらいたいと思っています。
かごは100円ショップなどで安く手に入る時代。なぜそんな大変なことを?と、おじぃ、おばぁが難儀して作っていたのを見てきた世代の方々はあまりやりたがらない。地域の子どもたちにもっと魅力を伝えていきたいです。
商品は制作が追いつかないので、販売先は増やせません。取引のある宮古島のホテルのショップ、今後は工房でのラインナップの充実を目指します。
循環を大事にしたいので、障害者の方々とも連携していこうとしています。材料を作ってもらい、それを買い取り、ワークショップを開催するというような、島に還すという流れを作って地域を繋げていきたい。
最近は脱プラスチックやSDGsなどの意識の高まりから、身近な自然素材で作られた物へ興味を持ち、積極的に生活に取り入れる方も増え、ここ一年くらいは流れがきているように凄く感じています。
「月桃のかごや」の池田波子さんとの出会い
「あだん工房」と一緒に古民家での活動を始めた「月桃細工」の作家である池田波子さんとの良い出会いがありました。池田さんが作った月桃のかごを販売している「染織布とキリムの店ゆう」で見かけたことから、すごい天才がいる!誰が作ったの?と思っていました。昨年、公民館講座をされるという話を聞きつけ、会いに行き、月桃でかごを作らせてもらったのが始まりです。いろいろお話ししてみると考え方も同じ、ぜひ一緒にやっていくべきだと思ってこの活動の立ち上げに誘いました。
vol.2はそんな藤原さんを虜にした池田さんに「月桃細工」のお話をお聞きしました。
あだん工房
月桃のかごや