ものづくり特集:琉球漆器に感じる沖縄の心
琉球漆器の特徴的な加飾技法「堆錦(ついきん)」
一言で言うと、液体の漆を固体化する技法です。立体的な表現が特徴です。漆で同じような技法は他の地域にはありません。この過程は、先程の漆器の話にもあった、高温多湿な気候の沖縄でしかできないのです。
①漆を焼く(焼くと通常は乾燥しないが、沖縄では乾燥する)
②顔料を加える(手で触れるくらいの硬さになる)
③漆と顔料を定着するために叩く(固体になる)
④ローラーで伸ばす
⑤A4くらいのピザの生地のようなものになる(餅くらいの硬さ)
⑥切ったり模様を入れたり色をつけたりする
⑦デコラ板から剥がして、器などに貼り付ける
一般には1715年に比嘉乗昌が創始したとされています。漆の技法の中では蒔絵などと比べて新しい技法です。あとから貼り付けるわけですが、漆の塗膜の上に漆の接着なので強固にくっつき取れることはありません。逆に堆錦が剥がせないので塗り直しの修理ができないくらいです。
漆器はなぜ赤と黒?
漆は少し黄味があるものの乳白色な樹液、赤や黒の製品が多いのには理由があり、顔料によって乾燥の仕方が違うんです。いつも作っている赤と黒は昔からのデータが蓄積されています。他の色はゼロから取り掛からなくてはいけません。アクセサリーブランドの「Nui Mun」では新しく青を作りました。何十回もテストしてようやく出したい色ができ、ある程度データが集まったので同じ色が出せるのですが、他の色を試そうとすると何回もテストが必要です。
赤と黒は面白くて、王冠朱という顔料を使っていて、これは漆と相性が良く、漆の乾燥を邪魔しないんです。黒は漆に鉄粉を入れ漆の中にある水分と鉄粉が反応して錆になり、何度も塗り重ねることで漆黒になります。この2色は歴史的背景と人類の叡智による技術です。このことから、赤と黒はとても出しやすい色なのです。
2014年に立ち上げた漆のアクセサリーブランド「Nui Mun」
漆器を使う機会の少ない若い世代に向けて、アクセサリーから取り入れてもらおうと「Nui Mun」を立ち上げました。
前職でジュエリーのバイイングをしていた妻がジュエリーやアクセサリーに詳しく、デザインと企画を担当しています。妻が「工芸振興センター」で学んでいるうちに、漆器でアクセサリーを作ってみたいと思い始め、自分と一緒にブランドを立ち上げることになりました。
漆のアクセサリーが和風になりがちなところを、今の洋服に合うモダンなものにしたい妻の思いがありました。木地や塗りは伝統的な琉球漆器の技法を駆使しました。しかし先程の話でも出た「青」を作ることが難しかったです。これも色々な方から、漆器は赤と黒しかないよねと言われ続けていたことなので、新しい色は作りたかったんです。今後も色を増やしていきます。
「技法」「技術」「素材」が琉球漆器の根本。それを変えなければアクセサリーや他のものを作っても琉球漆器と呼べるのではないか。そして根本を変えなければ自由な発想で制作ができる。根本は変えていないので、ベテランの職人でも抵抗なく制作でき、技術的な困難はないのです。立ち上げから7年ほど経ちますが、「Nui Mun」を入り口に、お店に来店してくれたり、器もいいねと言ってくれたり、手応えがあります。
新作はインテリア用品
11月にデパートリウボウにある「楽園百貨店」で展示会を予定しています。新作のコップやプレート、平皿。インセンスホルダー、モビールなど新しいインテリア用品も提案します。これまでに要望のあったものをこれで全部作ったなというところです。これまでずっと変わらずに作ってきたものはどうしてもクラシックな印象があり、今のライフスタイルに合うものを作っていきたいので、ここで答え合わせをしていきたいですね。
角萬漆器の商品は、ほとんどが自社販売。県外では通常は扱いがありません。「Nui Mun」はネットではアクセサリーは試せないこともあり、課題が多いですが、角萬漆器のECはおかげさまで商品がけっこう動くようになり、ネットショップは越境ECも含めて力を入れていくところです。
漆器への先入観
漆器は高い、傷がつきやすい、洗えないなどと先入観が強いことを払拭していきたいです。使い方は難しくなく、仕舞わずに頻繁に使って欲しいです。漆器は呼吸をしているので、人と同じ環境が過ごしやすいんです。漆は自然界に存在する世界最高の塗料と言われ、酸性、アルカリ性、水分、なんでも耐え、経年変化で艶は油分が抜けていき落ち着いた感じになっていきます。
冷蔵庫に入れたり、レンジや食洗機など急激な温度変化は木地の歪みによる剥離の原因になります。人の肌と同じで熱すぎるものを入れると火傷してしまうので、お味噌汁なども、火傷しない熱さになった頃に入れるように心がけてもらえると長持ちします。料理の脂でも艶が出ますので、油物にも気軽に使ってください。とても軽いのでお子様からご年配の方まで使えます。
唯一の弱点は紫外線ですが、逆に言うと、全て有機物でできている漆器は外に置きっぱなしだと紫外線で朽ちていくのでSDGsの観点からも、環境を汚染しない製品です。長く使えて、作る時もほとんどエネルギーもいらず、二酸化炭素も排出しないかなりの省エネ技術なんです。
琉球漆器は沖縄の一つの文化
琉球漆器の生産額は最盛期の1/10。どんどん無くなる方向へ進んでいます。新しいものを作ってこなかったこと、自分が10年前に帰ってきた時にお店を見て、なかなか難しいな(あまり自分が使うイメージも湧かなかった)と思ったし、ウチナンチュの文化が失われつつあること、琉球漆器が無くなるということは一つの文化が消えるんだなと思いました。私たちはただ単に琉球漆器を販売するだけではなく沖縄の文化を提案していて、文化とは心、アイデンティティーです。沖縄の人の心に寄り添った、新しいデザインや作り方をしていかなくてはならないなと思っています。
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