プチプチ!単細胞生物「海ぶどう」の謎を解明
海ぶどうは、沖縄を含めオーストラリアやハワイなど暖かい海に分布する海藻で、標準和名「クビレズタ」、グリーンキャビアとも呼ばれます。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)マリンゲノミックスユニットは、沖縄県恩納村漁業協同組合と共同で、海ぶどうの体における遺伝子の使い分けを明らかにすることに成功しました。
海ぶどうは、名前の通り果物のブドウのような粒がついた房を持つ緑色の海藻です。プチプチとした食感が楽しめ、近年では日本のみならず海外でも人気が高まっています。普段私たちが口にするものは養殖が多く、日本国内では恩納村や久米島といった沖縄が養殖生産量1位です。温室で栽培される海ぶどうの親株は1 メートル以上に成長します。実は、この1メートルも連なる一本の海ぶどうは、たった一個の細胞で形作られている単細胞生物なのです。なぜひとつの細胞がこのような複雑な形を作れるのか、とても不思議です。そんな海ぶどうの養殖では、食用部位の粒ができにくいなどの問題が養殖関係者を悩ませています。
「海ぶどうの体内はひとつながりになっています。体の各部位がそれぞれ機能を分担しているのか、それとも体全体が同じような機能をもっているのかはこれまで全く分かっていませんでした。粒ができにくいという問題への対処法も海ぶどうの粒が特別な機能を担っているか否かで異なるはずです。そこで私たちは、海ぶどうの各部位が担う機能を把握するために、各部位の遺伝子の働きに着目しました。」と、本研究論文の筆頭著者で、OISTマリンゲノミックスユニットの研究員(当時。現広島大学大学院統合生命科学研究科附属臨海実験所助教)である有本飛鳥博士は、研究に取り組むことになったきっかけについて話します。
海ぶどうの房は植物の葉の部分と同じ!?
2019年3月、研究チームは沖縄県恩納村漁業共同組合で養殖された海ぶどうのゲノムを初めて解読して発表しましたが、今回は、この解読した網羅的遺伝子情報を利用して、OISTの次世代型シーケンサー(超並列シーケンサー)を用い、各部位で働いている遺伝子を網羅的に検出しました。
写真:海ぶどうの体:果物のブドウに似た房の部分(Fronds)とつた状上の部分(Stolon)
その結果、海ぶどうの体内は物理的に仕切られていないにもかかわらず、つた状の部分と食用となる粒が付いている部分とでそれぞれ異なる遺伝子が顕著に働いていることが明らかになりました。つた状の部分ではDNAやタンパク質の合成に関わる生命現象の根幹を支える遺伝子群が多く含まれているのに対し、粒が付いている房部分では光合成や植物ホルモンなど成長に関わる遺伝子群が多く検出されました。すなわち、海ぶどうの房部分は陸上植物の葉の部分と同じ遺伝子群が働いていることが明らかになりました。
今回の研究で得られた健康な海ぶどうの遺伝子を用いることで、養殖関係者を悩ませていた生育不良の原因を解明できるようになります。さらに、水温や塩分濃度の変化に対する遺伝子の働きを研究することで、栽培環境の管理方法の開発や改善に役立つと期待されます。一方で、核はどうやって自分がいる場所を認識しているのか、また、つた部分から房部分ができる時、核はどのように分布しているかなど、海ぶどうの謎がますます深まったことも事実だといいます。OISTマリンゲノミックスユニットを率いる佐藤矩行教授は、さらなる研究の意義を強調しています。
⇒詳しくはコチラ
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/34462
(OIST公式サイト内「細菌の自由自在な運動性を解明」)