投稿日:2021.03.04

【沖縄美術日誌 vol.4】登り窯で焼かれる伝統〈横⽥屋窯〉

【沖縄美術日誌 vol.4】登り窯で焼かれる伝統〈横⽥屋窯〉

「沖縄の伝統⼯芸品は?」と聞かれて、まず最初に思い浮かべるのは⼀体なんでしょう。
紅型でしょうか?それとも藍染?
私の場合は「やちむん」でした。
今までのレポートで紹介してきたセレクトショップにも、必ず陳列されていた沖縄の器
たち。ガジュマルなどの天然染料で絵付けされた古典的な柄から、最近では動物をモチ
ーフとしたユーモラスな形の⾷器まで、多種多彩な「やちむん」が私たちの⽇常を彩っ
ています。

読⾕村座喜味にあるやちむんの⾥は沖縄の有名な観光名所の⼀つで、現在では19 の⼯
房が集まり、それぞれ独⽴して営業しています。
やちむんの⾥の歴史は古く、1682 年頃、琉球王朝の尚貞王が陶業の発展のため各地に
点在していた窯場を壺屋に集めたことが起源とされており、近年ではその多くの窯場が
読⾕村へ移転し、⽇々やちむんを作り続けています。
今回⼯房を⾒学させてくれたのは、やちむんの⾥の⼀⾓で営まれている「横⽥屋窯」で
した。
やちむん(=焼物)のベースとなる沖縄の粘⼟は、鉄分を多く含む⾚⼟です。焼くと鉄
分が酸化し⿊っぽくなるのが特徴的で、これに⽩化粧⼟を上掛けし⽩っぽい焼物が出来
上がります。


[⽩化粧がかかっているものと、いまだ⾚い肌を⾒せている器たち。]

⼯房内には粘⼟を濾すための⽔槽が設置されており、きめの細かい陶肌を⽣み出すため
の下ごしらえがされていました。

これは粘⼟に含まれる空気を抜く機械です。空気が⼊ったまま焼成してしまうと中で気
泡が弾け、器がわれてしまうそう。。

器は職⼈の⼿によって⼀つ⼀つ轆轤(ろくろ)を挽き、⼿製の測定器具によって均等な
器が形作られていきます。

やちむんを⾒る楽しみの⼀つが、職⼈の⼿によって描かれた多彩な模様ではないでしょ
うか?その⾊の素となる釉薬(ゆうやく、うわぐすり)は天然素材から作られており、
ガジュマルや鉱物のコバルトから作られます。現在では道具屋で簡単に購⼊することの
できる釉薬ですが、横⽥屋窯では昔からの⽅法で⼿作りしています。


[ガジュマルの灰が釉薬になるそう。。]

粘⼟作り、成形、乾燥、化粧⼟掛け。そして、また乾燥させ透明釉を掛ける(この⼯程
を経ることで、器の強度をあげたりカビ防⽌の効果があります)。また乾燥させ、最後
に絵付けをする。これで、ようやく窯焚きの段階へと⾄ることができるのです。
現在では、電気窯といった温度調整が⽐較的簡単な道具が発明されています。しかし、
横⽥屋窯では登り窯という伝統的な⼿法を⽤い窯焚きを⾏ってきました。
20年ほど前に⼿作りした登り窯、その登り窯での窯焚きは年に2回⾏われています。
窯の後ろへ⾏くと上がりの傾斜があります。そこに畳⼀畳分も無いやちむんを⼊れる
袋があり、窯焚きの際はそこにびっしりと物を詰めます。


(写真:横⽥屋窯)


[袋内にやちむんが並べられている様⼦]

窯焚きのスタートは窯⼝から始まります。祈りから始まる窯焚きは、⽕をつけられて窯
焚きが終わるまで2⽇間弱、夜通し⾏われます。
焚き⼝で次第に⼤きな薪にし、10時間程やくと1番⽬の袋の焼成に⼊ります。

登り窯は全て下で繋がっているので焚き⼝を終えるころには1 番袋も覗くと真っ⾚に
なっています。両⼿で持てるほどの薪を登り窯の両側から⼊れて焼いていきます。4〜
5時間し、焼き終えたと判断すると2番袋を焼き始めます。
窯焚きの出来を判断するのは楊枝壺に施したそれぞれの釉薬の具合を⾒てから⾏って
いきます。


(写真:横⽥屋窯)

登っていきながら最後の袋を焚き終えると窯焚きは終わりとなります。
窯焚き後、まる4⽇は完全に密閉し、冷却させます。
5⽇⽬になれば開けて、半年間の成果と対⾯することとなります。

ぽってりとして、柔らかい雰囲気を纏う伝統的なやちむんの器は、常に私たちの⽣活に
そっと寄り添ってくれます。
ゆっくりと時間をかけて、⼿間をかけて作られるやちむんは、速さや効率を求める現在
の世の中と逆⾏しているように思えるかもしれません。
発泡スチロールのお⽫に乗った料理でも美味しく⾷べることができますし、プラスチッ
クの袋に⼊ったままパンを⾷べることが⽇常になっているような気すらします。

でも、そんな時代だからこそ、⼿間隙をかけ、昔からの⼿法で作り続けられるやちむん
の温かさを感じられるのかもしれない。そう改めて感じました。

皆さんも、ゆったりとした時間の流れを感じながら、横⽥屋窯のやちむんに触れてみて
ください。

〈横⽥屋窯〉
住所:〒904-0301 沖縄県中頭郡読⾕村 字座喜味2651番地1
電話番号:098-958-0851
Instagram:https://instagram.com/yukutayagama?igshid=1qj5jdtqokhjs